2019年5月31日金曜日

患者勉強会でのI様の講演「在宅透析で元気に」

 先日のブログでお知らせしたとおり、先の患者勉強会において講演をしてくださいましたI様の原稿を掲載させていただきます。


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在宅透析で元気に

  


●透析治療に入るまで


 私は若い時に腎炎を患い、日赤でIgA腎症の診断を受けました。

30歳の時、それまでの事務の仕事を辞め、家業を継いで今日に至るまで主人と酪農をしています。46歳の時に非常に体調が悪くなり、県立中央病院に行ったときには腎臓の状態はかなり悪くなっており、あと数年で透析が必要になるだろうと言われ、大変ショックを受けました。


 酪農という1日も休めない仕事と、専門学校生・大学生の子供がいて、自分の体調を顧みる間もない時期でした。保存期を経て、平成21年から腹膜透析を、平成23年から血液透析をしています。現在57歳です。



●血液透析を始めて


 はじめ、私は家から5分で通える透析の施設でお世話になっていました。そこでは週3回、一回当たり4時間のHD透析でした。

 通うのも楽だし、ベッド数もそれほど多くはなく、看護師さんも親切に接してくださり、居心地の良いところでしたが、食事に気を付けているつもりでも、血液検査の結果が悪く、「リンもカリウムも高いですよ。貧血も進みましたね。」などと、たびたび言われたり、心胸比も大きくてどんどんドライウエイトを下げられ、ふらふらになったりしました。血圧も高く、薬をたくさん飲んでいました。

 同じころ、主人が実家に法事に行った折、そこのお寺の和尚さんが長時間透析をしていらっしゃる話を聞いて帰り、「あんまり元気でびっくりしたわ~! 松江のクリニックへ〇〇町から通っとらいと~」と言うのです。

 私もその話を聞いて、「いいなぁ」とは思ったのですが、「私はとても松江まで車で通うなんて無理…」とも思いました。

 そしてまたしばらく経ってから、今度は仕事の関係でお付き合いのある方が、姫野クリニックで長時間透析をしていらっしゃる話を主人から聞きました。主人は普段から食事制限で苦労している私を見ていたので、その方からいろいろ話を聞いて、「長時間でろ過透析をやると食事制限も緩和されて体も楽になるんだと。おまえもそこへ行ってみたら。」と言ってくれました。

 そうは言っても「私は毎回出雲まで事故なく車で通えるだろうか?」「今お世話になっているクリニックに転院を申し出て、嫌な顔をされないだろうか?」「長時間透析になったら、今よりもっと仕事や家事の時間が減ってしまうなぁ…」と、いろいろなことが頭をよぎり、なかなか決心がつきませんでした。

 1年ぐらい悶々と悩んでいましたが、このまま週34時間の透析を続けていても、弱る一方だと気が付き、決心をして、姫野クリニックへ電話をしました。その時には、「今は空きがないので、すぐには無理です。」と言われたのですが、「空きが出たら連絡します。」と言われ、希望の光が灯ったような気がしました。

 それから半年ほどして、姫野クリニックから受け入れてくださる旨の連絡があり、それまでのクリニックからも快く送り出していただき、平成27年の10月からこちらのクリニックで週35時間のHDF透析を受け始めました。
体調も良くなり、薬も減り、また、フットケアや栄養指導など、細やかに診てもらえて本当に転院して良かったと思いました。



●在宅透析を始めるまで


 転院してきて、初回の回診の時、和田先生から「今は在宅透析という方法もありますよ。」とさらりと言われ、「私は穿刺の時、怖くて針先を見ることもできないので、とてもとても無理です。」答えたのを憶えています。今となって思うと、その時に暗示をかけられていたのかもしれません。

 「在宅透析」という言葉は、心の中に引っかかって、インターネットで時々検索して調べ始めました。そして、ネット上で「在宅血液透析」という交流サイトを見つけ、そこに加入して、在宅透析をしていらっしゃる方、これから始めようとする方々と交流を始めました。

 また、主人が実家の法事に行った折、お寺の住職さんが在宅透析を始めておられ、以前にもまして元気になっていらっしゃるという話を聞きました。最初は遠い別世界の話と思っていたのが、だんだんと身近な現実的な話のように思えてきました。そうこうしているうちに、今度は看護師長さんから、「在宅透析の話だけでも聞いてみらん?」と言われ、聞くだけ聞いてみようと思いました。


その時のお話は、  

★在宅透析は、介助者に協力してもらって、患者自身が機械の操作や穿刺を行う。

★在宅透析を行うまでには、患者と介助者が医師や医療スタッフの指導の下、訓練を受けなければならない。

★家の中に機械を置く場所、給排水設備、透析の原液などの資材を置く場所の準備が必要である。

★訓練の途中で何度か理解度のテストをする。

というような内容だったと思います。そして、訓練を始めてみて、無理だと思ったら止めても良いし、途中で休んでまた始めてもいいですよ、と、ハードルを下げてくださいました。

 家に帰って、主人にその話をすると、すぐに「俺が介助者になるけん、やろう!」と言ってくれました。

 その後、和田先生、看護師さん、技士さんとで、もう一度在宅透析治療をする上でのルールや訓練のカリキュラムなどの説明をしてくださり、同意書を取り交わして訓練を開始することになりました。この時主人も同席して、説明を聞きました。

 また、実際に在宅透析をしていらっしゃる方のところへ見学にも行きました。透析を、夜間を中心に週56回して、昼間は元気に仕事をしておられる様子を見て、これは絶対やろう!と、決意しました。

 同意書を取り交わしてから、訓練が始まるまでには少し時間があったので、まずは穿刺してもらうときに目を見開いて、針先を見ることから始めました。だんだんと怖さが薄れてきて、出来そうな気がしてきました。


●在宅透析訓練


 訓練が始まったのは平成30年の6月終わりごろからでした。講義は、「透析ハンドブック」を教科書にして、腎臓の働き、透析の原理、透析の条件、透析の合併症、検査データの見方、薬について、シャントの管理、食事療法などについて学びました。

実技は、清潔操作、透析の手順、穿刺、回路の組立、機械の操作方法、異常時・トラブル時の対処方法などを実際に自分が使う透析機械で行いました。座学と実技、両方を並行して行うことで、なぜこの操作が必要なのかがだんだんと繋がりあって理解できるようになりました。

 透析をしながら、最初は私だけ、途中からは主人も一緒に講義、実技訓練を受けました。主人は仕事の都合もあり、透析の最初から最後まで通しては訓練を受けられないので、開始の操作だけ、終了の操作だけ、というふうに区切って訓練のスケジュール調整をしていただきました。

 在宅透析は、その名の通り自宅という病院のお医者様や看護師さん工学技士さんの目と手が届かないところで命に係わる治療を行うので、慎重に、一つ一つ確認をしながら行う必要があります。主人は穿刺の時や終了時の介助だけではなく、「開始前血圧計ったか?」「クランプは大丈夫か?」などと要所要所で注意してくれます。おかげで、今日まで無事に在宅透析を行うことができています。

 また、透析中に血圧低下や針が抜けるなどの緊急事態が起きた時の対処や、病院との連絡などは介助者の大事な役割です。幸い、今のところそのようなことはありませんが、信頼できる人が傍にいてくれるので、安心しています。

  私自身、一番大変だったのは、やはり穿刺の訓練です。血管の走行の確認、衛生操作、針の持ち方に注意、そしてブスリと針を刺す…本当にドキドキしましたが、在宅透析に漕ぎつけたい一心で、あまり痛さは感じませんでした。

 ビギナーズラックで、最初はうまくいきましたが、34回目ぐらいでうまく入らなくなりました。その時には、失敗したときは何がいけなかったのか、成功の時はどうだったかを記録して、次に生かせるようにと、穿刺の振り返りノートを作ってくださり、いろんなアドバイスをいただきました。また、インターネットで在宅透析をしていらっしゃる方の動画や、工夫しておられることなど、自分でも情報収集をすることで、前向きに取り組むことができたと思います。

 次に大変だったのは、トラブル時の対処方法です。技士さんから、何度も教えていただきましたが、操作方法が複雑で、頭が真っ白になってしまうことも度々ありました。それも手順書を作ってくださり、教えてもらう中で何度も改訂を加えていただき、透析中いつでも見られるように手元においてあります。何よりも穿刺を確実に行うことで大部分のトラブルは防げるとわかったので、今でも穿刺は緊張しながら行っています。

 訓練を受ける途中で、主人と一緒に3回ほど記述式のテストを受け、また実技についてもできるかどうかの確認を受け、合格できたのは10月の終わりでした。4か月の訓練を終え、平成30116日から在宅透析を開始することができました。


●在宅透析開始後の変化


 在宅透析に移行して、当初は昼間のみ、週に55時間透析を行いました。開始して、一週間もしないうちに体が楽になったと感じました。十分に食べられること、多少体重の増えが多くても、余裕をもって除水できることで気持ちの上でも楽になり、気力も湧いてきました。

 今は、会う人ごとに、「顔色が良くなったね。」と言われます。これは、実際の「顔色」と言うより「表情が明るくなった」ということだと思います。血液検査の数値も良くなりました。体温が、以前は35℃台だったのが、36℃台になり、抵抗力がついたような気がします。血圧も、以前は2日空きのときなどは高かったのが、あまり大きな変動がなく、安定してきました。そして、ドライウエイトも5か月で3.7㎏も増えました。

 昼間透析している間の過ごし方ですが、ビデオを見たり、本を読んだり、編み物をしたり、仕事の帳簿付けをしたり、時には家族とお茶を飲んだり、自由にしています。孫たちも、「おばあちゃんはお家で病院してるね~」と、幼いながらもよく理解してくれ、当初心配していた透析機械を触るなどのいたずらもなく、快適に透析しています。

  現在ひと月に2回通院して、レントゲンや血液、エコーなどの検査、診察を受けています。また、在宅透析中のトラブルについては、専用の携帯電話を使ってLINEで病院の技師さん、看護師さんに対応していただいています。今までに何回か脱血不良の対応や、機械トラブルの対応をしていただき、そのたび、画像を送ったり、テレビ電話でやりとりをして、事なきを得ました。


 在宅透析開始後5か月で夜間透析の許可がいただけたので、4月からは

週に4回×6時間(夜間) ・ 1回×5時間(昼間)

のペースで透析しています。

初めて夜間透析したときは、シャント肢の痛みや、機械の音で一睡もできませんでしたが、回を重ねるうちに少しずつ慣れてきました。それでも、少し睡眠不足気味なので、昼間に30分から1時間程度仮眠をとることもあります。

夜間透析をすると、昼間の時間が自由に使えるので、家事や仕事も十分にできるようになりました。今後はどんどん体を動かして、体力をつけたいと思っています。孫の子守も、今までは「透析があるから今日はダメだわ…」と言っていたのが、「いつでもいいよ」と言えるのは本当に嬉しいことです。


在宅透析のために用意したもの



在宅透析を行う場所

 私の場合は、皆の目が届くところが良いだろうと思ったので、居間を少し増築して、機械の収納庫・資材の収納庫、ベッドと機械を置く部分の板の間を作りました。家族皆が使う場所なので、透析をしていないときはすべてを収納して、茶の間として利用できるようにしてあります。

機械の収納庫の中には給水・排水の配管と専用電源を引いてあります。

部屋数に余裕のある方の場合は、一部屋を透析専用にして給排水の配管工事・電源工事で数万円の支出のみでおさまった方もあるようです。

ベッドも使わないときは折りたたんでおける電動リクライニングベッドを用意しました。

また、穿刺のための昇降式のベッドテーブルも用意しました。これで、ほぼ病院でやるのと同じような環境になり、在宅移行後もスムーズに穿刺や回路の接続などができました。


在宅透析をはじめて、電気代は約5000円、水道代は約3000円増えました。

私の場合は車で片道30分かけて通院していたときのガソリン代と同じぐらいです。



●おわりに


 現在全国で600人ぐらいの方が在宅透析をしているとのことです。

徐々に増えてはいるようですが、在宅透析をするにはいくつかのハードルがあり、簡単にはできないのも事実だと思います。


 介助者が必要なこともそのひとつです。共働きがほとんどなので、介助者が訓練に通うだけでも難しいことと思います。これからもっと在宅透析の認知度が高まり、勤務先の理解を得られれば介護休暇を利用して訓練に通うことができるかもしれません。


 また、患者の側から「介助者になって」とお願いするのも気が引けるというものです。私の場合は、主人から申し出てくれたので、遠慮なく飛びつきました。病院側も、一人の患者のために多くのスタッフを動員しなければならないし、リスクを負わねばならない面もあることでしょう。


 しかし、そんなハードルを一つ一つクリアしていけば、元気になって社会復帰できます。私は在宅透析に出会わせてくれた姫野クリニックの皆様、介助者になってくれた夫に感謝の気持ちでいっぱいです。後ろ向きだった気持ちから、前を向いて顔を上げて歩くことができるようになりました。


 いつまでこの在宅透析が続けられるかはわかりませんが、与えられた貴重な時間を一日でも長く、そして、今後在宅透析を始められる方のためにも、事故なく元気で過ごしたいと思っています。

2019年5月25日土曜日

第4回患者勉強会を開催しました

  去る5月12日(日)、姫野クリニックを会場に第4回目となる患者勉強会を開催しました。今回の勉強会を企画運営した担当チームの一員、板倉看護師から寄稿がありましたのでご紹介いたします。

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2019512日(日)

初夏の爽やかな日差しが降り注ぐこの日、出雲、大田クリニックの患者さまとご家族さまの40名をお迎えし、患者勉強会を開催しました。

普段顔を合わすことのない患者さま、ご家族さま同士の交流の場として、すっかり恒例となりました。



今年のテーマは

*「公立病院における透析中止」の経緯について

和田医師より説明のあと、病院の対応、透析中止や非導入、どのような条件が整えば透析中止を受け入れることができるかなど、考える機会となりました。




*「身近な家族や親族と話し合っていますか?」

 安食看護師より、昨年の「事前指示書ってなんだろう」に引き続き、上記のテーマで説明しました。昨年のアンケート結果より、身近な家族や親族との話し合いがもたれていない方が多いことが分かり、まずは今後どう過ごしたいか、最期をどのように迎えたいか、話し合いをすることが大切であることをお話しました。




 *「在宅透析で元気に」

 昨年の11月から、在宅血液透析をはじめられたIさんに、体験談を発表していただきました。当院で初めての在宅血液透析患者さまです。在宅血液透析に至る今日までの経過を、ひとつひとつ丁寧に、お話していただきました。未経験のことを創意工夫しながらクリアされていくIさんのバイタリティーと、介助者である配偶者の方やご家族の理解とサポートがあったことが大きかったと思います。

また、在宅血液透析が普及するための課題や、今後始める方のためにも、ご本人さまが在宅血液透析を続け、事故なく元気で過ごしたいとおっしゃっていたことが印象的でした。



今回の勉強会では、Iさんの体験談を通し、いかに自分に向き合って生きていくか、そして身近なひとと話し合うことの大切さを考える機会になったとしたら、主催者側としてはうれしい限りです。



また、在宅支援者(ケアマネージャー、看護師)の方を対象に、「顔の見える地域連携会」を同時開催しました。



たくさんの方に参加していただき、無事に勉強会を開催することができました。厚くお礼申し上げます。
                                患者勉強会担当チーム

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  今回、初の試みとして在宅透析をしていらっしゃるIさんに講演をお願いしました。貴重なお話をしていただき、参加された患者様のみならずスタッフも感銘を受けました。
  Iさんの御許可をいただきましたので、後日講演内容をこちらのブログにアップしたいと思います。